【大学受験】領域を利用する問題

正領域・負領域の話

 大学受験において「領域を描く」という問題は頻出ですが、その領域の"符号は?"と質問すると理解度が下がる気がしています。そこでこんな1題。

3つの直線x-y=1, 3x-y=1, x+y=4\sqrt{2}-1で囲まれてできる三角形の内接円の半径と中心の座標を求めよ。(18' 慶應義塾大学環境情報学部)

 まずは図を描いてみる人が多いでしょう。シンプルな問題ですが、意外と方針が立ちにくいのではないでしょうか。内接円の中心の座標をC(a,b)と置いてみて話を進めましょう。

解答の方針

 内接円の中心と3つの直線それぞれまでの距離dは等しいので、点と直線の距離の公式より次式が成り立つ。
\begin{eqnarray}
  d &=& \frac{|a-b-1|}{\sqrt{2}} & = &  \frac{|3a-b-1|}{\sqrt{10}} & = &  \frac{|a+b-4\sqrt{2}+1|}{\sqrt{2}} 
\end{eqnarray}
 絶対値がなければ、2元1次連立方程式を解けばa,bが求まるので中心の座標が分かりそうです。そこで絶対値を外すために正領域・負領域の出番です。

正領域・負領域の意味

 まず、x-y=1という方程式が表す意味を考えてみましょう。多くの方が「簡単。傾き1、y切片-1の直線だよ。」と分かると思います。
しかし、中学校で習ったころに戻っていただくと、これはもともと、x-y=1という式を満たす"点の集合"を意味したのでした。(たとえば(x, y)=(1, 0), (3,2)などなど無限にあります。)
これを集めてx-y平面にプロットしたら「直線になるよ」というのが中学校でのお話でした。

それではx-y>1を満たす"点の集合"を集めてx-y平面にプロットしたらどんな領域になるでしょうか。
たとえばさきほど挙げた(x, y)=(1, 0), (3,2)などの例はx-y=1となるのでこれを満たしません。
しかし、「これらの点より少しでもxが大きい(x-y平面右方向)か、yが小さければ(x-y平面下方向)x-y>1を満たす」ことが分かります。
つまりx-y=1の表す直線よりも"右下"にある領域の点(a, b)を代入したらa-b>1となることを示しています。
このような点をすべて集めたものを正領域と呼んでいます。当然、不等号を逆にした場合を満たす点の集合を負領域と呼びます。


解答

 内接円の中心と3つの直線それぞれまでの距離dは等しいので、点と直線の距離の公式より次式が成り立つ。
\begin{eqnarray}
  \frac{|a-b-1|}{\sqrt{2}} & = &  \frac{|3a-b-1|}{\sqrt{10}} & = &  \frac{|a+b-4\sqrt{2}+1|}{\sqrt{2}} 
\end{eqnarray}
正領域・負領域を考えると、図より|a-b-1|=-(a-b-1), |3a-b-1|=3a-b-1, |a+b-4\sqrt{2}+1|=-(a+b-4\sqrt{2}+1)となることが分かる。すなわち
\begin{eqnarray}
  \frac{-a+b+1}{\sqrt{2}} & = &  \frac{3a-b-1}{\sqrt{10}} & = &  \frac{-a-b+4\sqrt{2}-1}{\sqrt{2}} 
\end{eqnarray}
を解けばよいことになり、これをa,bについて解くと、
 a = \sqrt{10}-\sqrt{2}, b = 2\sqrt{2}-1
が求まる。

よって円の中心の座標は(\sqrt{10}-\sqrt{2}, 2\sqrt{2}-1)

また、円の半径rに関しては結局「解答の方針」で定義したdに等しいので

 r =   \frac{-(\sqrt{10}-\sqrt{2})+2\sqrt{2}-1+1}{\sqrt{2}}=3-\sqrt{5}

以上